また、4年に1度の総統選挙が巡ってきました。

総統選挙は、台湾人にとって
オリンピック、ワールドカップ以上のお祭りかもしれません


今日はそんな台湾の選挙文化を紹介したいと思います。


ただ、非常に敏感な話題なので、最初に注意書きを書かせていただきます。

1.特定の政党、候補者を支持するものではありません
単に外国人の目線から、 興味本位で書いたものです
2.台湾を批判する内容ではあるけれど、
  台湾人自身も嫌い、改善しようとしているところです
すでに改善が見えつつあります。
3.あくまでも素人が書いた文章なので、浅いです
表層しかなぞっていない、と言われればその通りです。 


ここが変だよ!台湾選挙

1.とにかく熱狂的すぎる

昨日、総統候補者の一人が新竹市に来たので、「取材」に行ってきました。

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演説会場。全部支持者です。


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支持者が振る旗の海




ロケット花火が飛び、爆竹を鳴らしていますが、お祭りではありません。ちなみにこれは2年くらい前の別の選挙です。



オリンピックやワールドカップ以上と言った意味が解ったでしょうか。
選挙前はこんなことが毎日台湾中で行われています。

政治に熱狂的な台湾人は多いです。毎回選挙のたびに、支持政党の違いから友達がケンカしたり、挙句の果てには離婚、兄弟や親子の縁を切る、ということまであるそうです
もちろん、大部分の台湾人は、こんな状況に嫌気が指していて、政治の話を避けるようにしていますが、やはりこういう人はまだいるそうです。


メディア戦略が大がかりなのも、台湾選挙の特徴の一つです。

看板

台湾の選挙ポスターは、笑っちゃうほど大きいです。


CMも金がかかっています。映画の予告かと思うほどです。




ネガティブキャンペーンも多いです。台湾では、相手の候補者や政党を徹底的に非難します。

ネガティブキャンペーン看板

「嘘つき、 嘘つき嘘つき嘘つき 現役立法委員の名前を当ててみてください」 
ある立法委員のポスターの隣にありました。


選挙前には(他の時もありますが、特に)、デマが乱れ飛びます。今回の選挙では、「馬英九が選挙ギャンブルの胴元と密会していた」と、「蔡英文が特権を乱用していた」というデマがあります。もちろん、僕には真偽のほどはわかりません。
「馬英九総統が民進党を提訴、「賭博の元締めとの密会」発言で」
「宇昌案:経建庁トップ、蔡氏への誤った攻撃で謝罪」


熱狂的であるということは、暴力的であるということでもあります。選挙活動中、候補者どうし、あるいは支持者どうしでしょっちゅう衝突が起こります。


 

関心が高いので、もちろん投票率も高いです。2008年の総統選挙の投票率は76%でした。投票率が高いのはいいことですね。
「2008年中華民國總統選舉」 (Wiki)


2.買収が多い

2002年の高雄市議長選挙では、たった一つの市の選挙なのに40人を起訴、その中には34人の市議会議員と元市職員、立法委員が含まれ、6200万元(約1億5000万円)の買収に使われたお金が突き止められたそうです。
「賄賂」(Wiki) 

伝統的な買収方法
一、現金で買収

二、プレゼントを贈る
   酒、お茶、醤油、味噌など。
三、旅行
  無料で旅行に連れて行く。
四、食事会
以前は、観光バスを丸ごと貸切って旅行に連れて行く、という話も聞いたことがあります。今は厳しくなって、そんなに大っぴらなことは出来ないようです。
もちろん、政府も手をこまねいているわけではなく、懸賞金を出して告発を募っています。今年の最高懸賞金は1500万元(約3900万円)だそうです!
「全民反賄選 最高檢舉獎金1.5千萬」(公視)

消火器

家の近くにあった、議員の名前入りの消火器。大っぴらにやっているということは、台湾では違法ではないのでしょうが、もちろん日本だったら公職選挙法違反です。


3.アピール機会が公平ではない 

日本では、選挙での公平性が追求されています。
ポスターを貼る場所が決められていて、それ以外に貼った場合は罰金です。選挙カーも、一人の候補者に一台と決められています。ですから、少なくとも基本的には、 どんな有力候補でも、泡沫候補でも、アピールの機会だけは同じです。メディアへの取り上げられ方などは違いますが。
台湾は違います。ポスターも旗も、規制がありません。ですから、ポスターや旗が街を埋め尽くします。選挙カーも、民間の宣伝業者に頼みます。ですから、お金があればあるほど、広くアピールできます。お金がない候補者は、ポスターや旗が少ないので、有権者から見れば立候補したことすら気づきません。

旗

ただ、この状況は今かなり改善されました。写真は今回の選挙ではありません。以前のアンケートで、「台湾の一番醜いもの」に選挙の旗が選ばれたのが影響していると思います。
「選舉旗幟招牌 台灣第一醜」


3.メディアが公平ではない

日本でもメディアが偏っていると言われますが、その比ではありません。メディアは党の宣伝道具みたいなものです。こう書くと、少し台湾に詳しい人は、「国民党と外省人が台湾メディアを牛耳っている」と言いそうですが、民進党べったりのメディアもあるので、お互い様だと思います。


4.ヤクザの介入

上に書いた選挙の買収、脅迫というのは、ヤクザがやっているそうです。

また、選挙はヤクザが開催するギャンブルの対象になっています。2004年の選挙では、賭け金の総額が100億元(約260億円)だったそうです。そうなると、ヤクザも、どうにかして自分が賭けた候補を勝たせようと選挙に介入します。真実はわかりませんが、後に書く銃撃事件もそうして行われた、という説があります。
「臨近選舉台灣警方嚴查賭盤」

台湾では選挙で2回銃撃事件がありました。2004年総統選挙で陳水扁が銃撃された事件、2010年地方選挙で連勝文が銃撃された事件です。
2004年の事件では、車に乗って選挙活動をしていた陳水扁が銃撃されました。陳水扁に同情票が集まり、僅差で勝った(と言われている)ので、民進党の自作自演を主張する人もいます。犯人は2005年に発表されましたが、その時すでに死んでいたので、多くの人はこの人が真犯人だとは信じていません。ケネディ事件のオズワルドみたいなものです。
2010年の事件では、選挙活動中に発砲、一人が亡くなり、 連勝文が銃弾が顔を貫通する大けがをしました。犯人はヤクザでした。しかも、犯人を取り押さえたのも、大物ヤクザでした。元竹聯幇の堂主です。日本で言えば、山口組直系組組長に当たります。そんな人がステージの上に立って選挙活動を手伝っていたわけです。
台湾の場合、政治家とヤクザがつながっているというより、一部はヤクザが政治家をしている、と言ったほうが正確らしいですが、これはまた改めて書きます。

また、ヤクザではありませんが、中国も台湾の総統選挙に介入します。国なので、銃弾とか生易しいものではなく、ミサイルが飛びます。1996年の選挙では、独立志向の李登輝に圧力をかけるため、ミサイルを飛ばしました。ただ、これは逆効果になったので、それ以来中国は台湾の選挙に介入するのは慎重になっています。

「三一九槍擊事件」
「1126槍擊事件」
「台灣黑金政治」
「台灣海峽飛彈危機」


5.その他、日本だったら選挙法違反になること

1.選挙期間を誰も守っていない
2.戸別訪問
3.たくさんの車や人が連なって歩く
4.太鼓やラッパなどの楽器を使う


続いて、どうして台湾ではみんなこんなに選挙に熱狂的なのか、僕なりに分析してみたいと思います。


台湾選挙が熱狂的過ぎる原因


1.台湾人の主体性が強いこと

これは普段から思います。台湾人は何事につけても、日本人と違って「長いものに巻かれろ」という意識が希薄です(あくまでも傾向です。念のため)。気に入らないことがあれば、すぐに文句をつけます。
仕事の話ですが、気に入らなければすぐに転職します。また、起業意識も日本人よりはるかに強いです。


2.台湾人が感情的であること

事故で家族を亡くした日本人が、黙って悲しみに耐えている姿をニュースで見た台湾人が、こう言いました。「どうして日本人はあんなに我慢強いのか?台湾人なら卵を投げている」
台湾人は本当に感情的です。うれしいときも怒ったときも、全て表に現します。


3.争点が大きいこと

日本だったら、左翼から右翼にいたるまで、「自分が日本人である」という一点については一致するはずです。
台湾ではそんな共通認識すらありません。ある人は、自分は台湾人だと思い、ある人は、自分は中国人だと思い、ある人は自分は中国人であり、台湾人でもあると思っています。せいぜい消費税率の差が争点になる日本と違って、台湾では、「そもそも自分が(そして政治家が)何人なのか」というアイデンティティ問題が巨大な争点となります。
もちろん、政治家はみんな、「私は台湾人です」と言いますが、みんな信じません。中国との統一志向の政党と、独立志向の政党ははっきりしていますから、自らのアイデンティティと一致する政党に投票する人が多いです。
もちろん、経済政策なども大きな争点ですが。


4.昔、政治的自由がなかった反動

あまり知られていないことですが、台湾も数十年前は北朝鮮や中国と同じ、一党独裁の国でした。政府を批判すると逮捕され、下手すると殺されました。自由に政治活動できるようになったのは、つい20年ほど前のことだそうです。今政治に熱狂的なのは、その頃自由がなかった反動ではないかと思います。
というのは、今、台湾のケーブルテレビに100以上チャンネルがあります。昔は、政府に認められた3チャンネルしかなかったそうです。それが、放送の自由が認められて以来、雨後の筍のようにテレビ局ができたそうです。